Unbalance + Automatic ※ and I love you

2004年~2007年 29歳~32歳の情念ノート

悪夢



その夜、私はよく眠れず、かといって書物でも読もうかという気にもなれず、悶々と寝返りを繰り返していた。ふと気づくと、布団の上に何かがのっている。みると童女であった。童女は赤い血のような着物を羽織っていて、顔の方を見ると口だけがニヤリと笑っているのが覗けた。ははあ、これはどうやら嫌な悪夢であるな、と思った瞬間にそれは嘘のようにそこから消えていた。安堵すると同時に、何やらすうっとした心持ちになった。夜の冷気に震えて、そこらにおいたものを羽織って水を飲みに立った。ひんやりとした廊下をわたり、水飲み場へいこうとすると何やら様子がちがっていた。いつのまにか、暗い闇に塗りつぶされた板張りの廊下は消え、緑にぼおと光る白い立方体の長く長く続く廊下の中程に居たのである。はて、ここは何処だろうかと思ったが覚えがなかった。またも夢だ、と思いつつなんだか酷く不安だった。ふと前を見るとナースの格好をした女性がなにやらガラガラと台を押しながら歩く後ろ姿が見える。ははあ、此処はおそらく病院か、独り呟いた。なんとなしに歩んでいくと、顔に包帯を巻いた少女が点滴台をカラカラと流しながらこちらへ歩いてくる。その少女と目を合わせないようにしつつすれちがった。しばらく歩いてふとうしろを振り返ると少女の姿は無く、血の付いた包帯だけがごみくずのように落ちてゆれていた。突き当りを曲がったところで初めてドアを見つけた。薄汚れた感じの引き戸を静かにあけた。薄闇の病室の中では患者らが静かに寝息を立て眠っているようだった。静かにベットの間を抜け此の部屋を通り抜けようとした。よく見ると部屋はかなり広く、向かい合わせの寝台が幾列にも並んでいるようである。それぞれの寝台はどうしてだか通常の丈の半ば程しかなく、その上にガラスケースが被さっているのもいくつか見え、それらの隣には奇妙な電気の波が見える機械がおいてある。何だろうと思い、ガラスケースの一つを覗き込んでみた。奇態な嬰児がいた。青白い全身の皮膚。顔面や身体の端々には絵に描いたような赤い血管が浮き出ている。その頭蓋は通常の三倍はあろうか、不規則な曲線を描き額にせりだし、黒目の無い充血した見開かれたままの眼球を圧迫している。左右非対称のいびつな肉の盛り上がりをみせる小さな腕はゆっくりと蠕動している。周りの幾つかのガラスケースにも人型に似た肉塊の姿態がちらと見え。みてはいけないものをみたと思った。はやく出なければいけない。ずっとここにいるとこの児らが皆起き上がって私を見るのだ。この児らには骨が無い。看護人は児らの身体を丁寧に慎重に介護する。児らはなけなしの筋肉で動きをとろうとするがそれはほとんどかなわずぴくりぴくりと蠕動するのみである。顔面は崩れ口は閉まることはない。その穴の奥に赤い舌がちらりと見える。私は児らと意志の疎通および人間的なかかわりがとれるはずだと考え努力してみるのだがやはりかなわない。稀にこれはと思う反応があってもほとんどが勘違いであることが多い。そのような研究成果を踏まえそれでも私は彼らには人間として尊重されるべき何かがあるはずだと主張しつづける。私はこの児らとこの穴蔵でくらし一生を費やし捧げるのだ。そこには神の真実へとつながる何かがあるはずなのだ。
 そのような夢をみたあと、びっしょりと濡れた寝間着を着替え、煙草をくゆらせながら、ぼんやりと夢の解釈をこころみた。