Unbalance + Automatic ※ and I love you

2004年~2007年 29歳~32歳の情念ノート

セブン・スター


 セブン・スターはサーカスにいる。彼の仕事は少年道化師。くる日もくる日もお客さんに、愛想と笑いをふりまきつづける。
 そんなある日、セブン・スター、自分が笑えなくなっていることに気が付いた。化粧を拭い、鏡に向かい、いつものお愛想やってみる。ニッと笑っているように見える。でも彼はここ数ヶ月、ホントに笑ったことがない。鏡の笑いは仮面の笑い。
 セブン・スターは思った。このままでは僕だめになる。サーカスを抜け出し、僕、また笑えるようになろう。そうして人並みの生活をして、きれいなおよめさんをもらって、ひとところに長く住もう。
 セブン・スターは夜よなか、一人でこっそり逃げ出した。風がごうごうと鳴っていて、セブン・スターはその音の中に、団長の鞭のピシリピシリという音までも聞こえるように思えた。
 次の日セブン・スターは青空の下、疲労のためにぐったり倒れ、そのまま草原の上で昏々と眠りに落ちた。
 セブン・スターは驚いた。目覚めて見わたすとそこは地下の大広間。なにやら賑やかな宴の模様。お客を眺めてさらに驚く。天地の精霊、諸界の妖精、天使様に女神様、果ては地獄の公爵たちとその下僕までが、そろいもそろって大宴会!なぜ自分がこんなところに?と思うひまもなく、セブン・スターは顔におしろいを塗りたくられ、赤や金の派手な衣装をつけさせられた。
 「さあ、芸をしろ道化師」
 悪魔の一人が恐ろしい声で言ってくる。やんややんやと女神も天使もはやしたてる。セブン・スターは恐怖でいっぱいだったが、なんとか玉乗りやお手玉やらやってみた。ところが恐れのあまり手足が震えて失敗ばかり。客は罵声と憐れみの表情と囃したてる声を、セブン・スターにこれでもかこれでもかとふりかける。セブン・スターはとうとうわんわんと泣き出して、その顔はぐちゃぐちゃのどろどろになった。それを見て客たちは初めて大爆笑。笑い声はいつまでもいつまでも絶えることがない。セブン・スターは気を失った。
 気づくと夕暮れ。セブン・スターは野っ原で横たわったままでいる。しばらくボーッとして、立ち上がってみると遠くに街の明かりが見えた。セブン・スターはそちらへ向かい、ゆっくりと歩き出した。一番星が彼の後ろで瞬いている。
 彼がその後、笑えるようになって、きれいなおよめさんをもらえたかどうかは定かではない。そうだったらいいね。